はじめに
点の情報はAIでも答えられます。でも、線の話は経験した人からしか聞けません。
値段の決め方も、検索すればそれっぽい相場感はいくらでも出てきます。ここで書くのは、そういう「点」の情報ではなく、10年ウェブ制作を続けてきた中で値段について悩み、実際に決めてきた「線」の話です。
値段が決められないのはなぜか
値決めで悩んで消耗する人は多いです。でもこれは、センスや度胸の問題ではありません。ハマっている罠が2つあるだけです。
いくらで受けるか決められないのは、度胸がないからじゃない。基準を相場に置いてるからです。
罠①:相場に値段を決めさせている
多くの人は、まず相場を調べて、その枠の中で戦おうとします。でもウェブ制作の相場は、あってないようなものです。売る場所によって桁が変わります。ココナラやクラウドワークスなら安価になりますし、オフラインでの交渉であれば数百万の案件もあります。相場に合わせにいこうとするほど、消耗していきます。
罠②:安くしないと獲れないと思っている
もうひとつの罠は、「高く言うのが怖い」という自信の問題を、値段の問題だと勘違いしていることです。ここが、今日の裏テーマにもつながってきます。
何を基準に値段を決めるか
相場ではなく「自分」を基準にする。ここがすべての起点です。
相場はあってないようなもの
ウェブ制作の相場は、あってないようなもの。だったら、自分がいくら欲しいかで決めていい。
売る場所によって桁は変わりますし、工数や要件の難易度によっても変わります。"正しい相場"をいくら探しても、答えは出ません。
自分の生活から逆算する
基準にするのは「自分にいくら必要か」です。損益分岐点はどこか、月にいくら残ればいいか。そこから、1案件あたりの下限を逆算します。相場ではなく、生活を基準にするということです。
1案件じゃなく、時間単価で見る
生活に必要な額を、使える時間で割ったものが、目標の時間単価になります。「1案件いくら」だけで見ていると危険です。案件ごとに、ざっくり何時間かかるかを先に見積もっておく必要があります。
相手都合で納品が延びると、金額は同じでも時間単価は下がっていきます。延びれば延びるほど、割に合わなくなるということです。だからこそ、工数の想定と、それを守るための設計、つまり納期や支払い条件がセットになります。
1案件いくら、じゃなく、1時間いくら。納品が延びれば、その時間単価は溶けていきます。
誰に・どう売るかで値段は変わる
同じ金額でも、相手と見せ方によって意味が変わってきます。
売る相手で"同じ額"の意味が変わる
たとえば1サイト30〜50万円という金額は、スタートアップにとっては気張って払う額かもしれませんが、年商が億を超える企業にとっては「そんなもん」という額だったりします。同じ金額でも、相手によって重さがまったく違います。だからこそ、「誰に売るか」によって価格帯を選ぶことができます。
見せ方でハードルは動かせる
値段そのものより、"どう見せるか"でハードルは動かせます。
イニシャルコストを抑えたい相手には、「月3万円×12ヶ月、その間のサポートもコミコミ」のような見せ方があります。総額は同じでも、心理的なハードルは下がります。
ただし回収リスクを織り込む
ここは正直に書いておきます。月払いにすると、支払いが滞るリスクを負うことになります。与信管理や回収業務も、コストとしてあらかじめ想定しておく必要があります。見せ方でハードルを下げた分、回収の設計はセットで考えておくべきです。
期待値コントロール
金額を上げるほど、取引相手の期待値も上がります。自分の技術や経験と照らし合わせて、その期待に応えられる状態かどうかを見る必要があります。値段は、自分自身への要求水準でもあるということです。
自信ある値決めは、場数で作る
ここが今回の核になる部分です。今の値段は、過去の場数の上に立っています。
副業時代のスピード感
副業時代は、1案件5〜10万円で受注していました。月の生活費として20万円が必要なら、月に4〜5件やる計算です。週1で1つを納品から請求まで完了させる、というスピード感でした。かなりの密度だったと思います。
その中で磨いたもの
その密度の中で磨いたのは、制作の効率化と、一発のプレゼンでクライアントの期待値を凌駕するクオリティです。このスピードと質は、場数の中で身につけたものです。
念のため正直に書いておくと、安くやることを勧めているわけではありません。量をこなせる時期に、質とスピードを上げた、という話です。効いたのは"安さ"そのものではなく、"場数と、その中で上げた質"でした。一発のプレゼンで期待値を凌駕するというのは、言い換えれば初稿・提案のクオリティをどれだけ担保できるかという話でもあります。ここは、JapanElementsのようなプロ級のテンプレートを使って、提案の初稿そのものを底上げするというやり方もあります。
今の"下限"は、その頃に作った
今、30万を下限だと言える自信は、5万円を週1で納品してた頃に作ったものです。
今は30万円が下限です。当時積み重ねた努力があったからこそ、自信を持ってこの値段を出せています。自信は度胸ではなく、場数の蓄積からできています。
値決めは"回収"まで含む
値段を決める、というのは「いくらにするか」だけの話ではありません。そのお金をちゃんと回収しきるところまでが、値決めです。
着手金は必ずもらう
値段を決めることと、そのお金を回収しきることは、セットです。
着手金はいただいておくのが好ましいです。自分のキャッシュフローが安定しますし、制作・納品したのに支払われない、というリスクを抑えることができます。
"納品"の定義を先に決める
"完成"じゃなく"納品"の定義を、先に決めておく。ここが曖昧だと、終わってるのに回収できない。
10年やってきて言えるのは、こちらが作り終えても、相手都合で「納品」自体が延びることはザラにある、ということです。制作完了と納品は別物です。だからこそ、納品の定義を取引相手と先に握っておく必要があります。
たとえば、提案後、期限までにもらったフィードバックの修正対応が完了した時点を「納品」とする、という決め方があります。それ以降の修正は「納品後サポート」の範囲で対応する、というように分けておきます。こう決めておくと、制作は終わっているのに相手都合で待たされて回収できない、という状態を減らせます。これは、時間単価が溶けていくのを防ぐ、具体的な方法でもあります。
修正は"回数"で縛らない
修正回数を「何回まで」と定義する人もいますが、これは実はやりにくいものです。何をもって1回とカウントするのかが曖昧になりますし、後から「それは別料金です」と出すのはハードルが高く、融通が利かないと受け取られて関係を悪くしてしまいます。
要件定義から大きく外れた機能追加やレイアウト・デザインの変更は、別料金にすべきです。ただ、要件の範囲内の修正であれば、対応した方が顧客満足度は上がると考えています。回数で縛るのではなく、要件の内か外かで線を引くということです。姿勢としては誠実にやりきりながら、対応する範囲は最初にきちんと握っておく、ということです。
ただし、言われた通り直すのはプロじゃない
言われた通り直すだけなら、誰でもできる。"何がしたいか"を読んで返すのが、プロの修正です。
要件内で対応するというのは、御用聞きになるということではありません。クライアントのフィードバックの"意図"を読んで、提案に変えるのがプロです。
たとえば、デザインに詳しくないクライアントから「ここの文字を大きくして」と言われたとします。素直に大きくすると、全体のバランスが崩れてしまうことがあります。そういうときは、意図は「目立たせたい」ということだと読み替えて、「色をつける」「大見出しの下に小見出しを足す」といった逆提案をします。これができると、修正対応そのものが信頼と単価に返ってきます。
支払い条件は交渉できる
ビジネスの基本は末締め翌月末払いですが、必ずしもこれに則る必要はありません。取引相手との交渉で調整できますし、可能な限り早く回収するのがビジネスの鉄則です。
吉積式の支払い設計
自分の場合は、着手金として半金をいただいてから着手し、納品後は請求書送付から2週間以内を入金期日に設定しています。クライアントによって細かな調整はしますが、概ね理解いただけています。"早く・確実に回収する"を、そのまま運用の形にしたものです。
回収の設計をミスると、資金繰りに直撃します。相手都合で入金が飛べば、自分のキャッシュフローが悪化し、こちらの支払いが遅れる、ということも普通に起こります。この"食らった話"と対処については、また別の機会に。
まとめ:3つの問い
ここまでの話は、3つの問いに集約されます。
- あなたは月いくら必要で、その1件に何時間かけられるか(下限と、目標の時間単価)
- その値段を、誰に・どう見せて出すか
- そのお金を、どう回収しきるか(納品の定義・支払い条件まで含めて)
この3つを決めるだけで、値決めは変わってきます。今日の話は結局、「基準を相場ではなく自分に取り戻す」という一点に尽きます。
まずは、自分の下限を一度決めてみてください。ここに書いたのはあくまで自分の一例で、そのまま同じようにやれば効くという保証はありません。自分の状況に照らして考えてみてください。
値段は相場じゃなく、自分の生活で決める。その自信は、場数の中で作った。